SESの「還元率」という数字を、真に受けないでほしい話
去年、退職を申し出てきた社員がこう言った。「次の会社は還元率が70%なんです」と。
そのときは正直、こんな話がうちの社員の間で広がることはまずないだろう、と軽く考えていた。わざわざ取り上げるほどの話でもない、と。
ところが今年になって、また同じことが起きた。別の退職予定者から「次はSESの会社で、還元率70%くらいを約束してもらった」という話を聞かされたのだ。二度目である。一度なら偶然で済むが、二度あるということは、この「還元率」という言葉が思った以上に人を惹きつけているということだろう。笑い話で済ませるつもりだったが、さすがに一度きちんと書いておいたほうがいいと思い、筆を執った。
まず「商流」の話をしないと始まらない

還元率の話をする前に、どうしても避けて通れないのがSES業界の「商流」という構造だ。
冒頭の図を見てほしい。エンド企業が「100万で」と発注した案件が、元請、1次請、2次請、3次請と流れていくうちに、80万、60万、20万と目減りしていき、最終的にプログラマーの手元に届く頃には「10万で開発します」になっている。極端に描いた図ではあるが、構造としてはこれが現実だ。
ここで気づいてほしいのは、商流のどの階層にいるかによって、その会社が受け取る単価がまったく違うということ。つまり、還元率の「分母」が会社ごとに違うのだ。
100万の60%は60万。10万の60%は6万。同じ「還元率60%」でも、金額は10倍違う。
だから「うちは還元率70%です」と言われても、その数字単体では何の意味もない。分母がいくらなのかが分からなければ、比較のしようがないからだ。仮に契約書を見せられて「ほら、嘘はついていないでしょう」と証明されたとしても、状況は変わらない。その数字は、あなたを採用するために設計された釣り餌であって、あなたの手取りを保証するものではない。
都合よく語られない「待機」の話
もうひとつ、Twitter(今はXか)などで還元率を高らかに謳う会社や社長が、決まって触れない話がある。待機期間の給与保証だ。
まともな会社の理屈はこうだ。
- 案件にアサインできている間は、当然給与を100%支払う
- 案件が途切れて待機になった場合でも、給与は契約のまま保証を出す(正社員だから、当り前でしょ!)
これが雇用というものだと私は思っている。
では、還元率を売りにしている会社はどう言うか。「売上が立っていないのに、どうやって60%や70%を払うんですか」——これである。案件に入って初めて売上が発生し、売上があるから還元できる。案件に入れなければ分母がゼロなので、支払うものもゼロ。理屈としては筋が通っているように聞こえるかもしれないが、要するに事業リスクを全部エンジニア個人に転嫁しているだけの話だ。
高い還元率というのは、会社が本来負うべきリスクを負わないことの裏返しである。ここを理解せずに数字だけ見て転職すると、案件が途切れた瞬間に収入もゼロになる、ということが普通に起こり得る。
結論:還元率だけ語る会社は、無視していい
長々と書いたが、結論はシンプルだ。
還元率の数字だけをアピールして、商流上の立ち位置も待機時の保証も語らない会社(や、SNS上の社長)は、無視して構わない。数字の高さで人を釣る商売は、釣られた後のことを考えていない。
もちろん、転職そのものを否定するつもりは毛頭ない。より良い条件を求めて動くのは当然のことだ。ただ、その「条件」を比較するなら、せめて分母と保証まで含めて見てほしい。パーセンテージという一番わかりやすい数字は、一番ごまかしやすい数字でもある。
ここまで説明してもなお「還元率70%」に心が動くのであれば、それはもう私が止める話ではない。ただ、二年連続で同じ話を聞かされた身としては、三度目がないことを祈るばかりである。


